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2006.07.25

川島誠『800 TWO LAP RUNNERS』

なぜ八〇〇メートルを始めたのかって訊かれたなら、雨上がりの日の芝生の匂いのせいだ、って答えるぜ。

坂東齢人じゃないけれど、この冒頭の一文がすべて。
雨が降っても中止にならない競技(他にはサッカー、ラグビーくらいか?)をやっていた人なら誰もがこの一言で参ってしまうはず。
川島誠の『800』は優れた陸上小説であり、青春小説でもあります。
恵まれた肉体を持ち、根性で走る中沢と己のからだと冷静に対話し理詰めでレースに臨む広瀬。
対照的な2人を主人公に800メートルというマイナーかつマニアックな競技に打ち込む姿を描いた傑作。

スポーツを扱った小説(映画)にはなぜ、つまらないものが多いのか?
”スポーツ経験者には文才が備わらず、文章力に秀でた者にはスポーツの経験が乏しいから”
俗説とは思いますが、この分野に駄作が多いのは事実。
そういった意味でも貴重な1冊。
広瀬のパートで語られるカーボ・ローディングやサーキット・トレーニング、速筋と遅筋の関係など、競技に関するディテールは競技経験のない人にも興味深いでしょうし、本来の青春小説部分は肉体派中沢のパートから物語全体に広がって読者を引きつけます。
障害者やティーン・エイジャーの性といった作者のテーマが他の作品では少々鼻につくのですが、この作品はそのテーマも陸上競技に対する執着もきれいにまとまってます。
薄井ゆうじ(『天使猫のいる部屋』『樹の上の草魚』)をちょっと思い出しました。
胸がドキドキして、読み終わった後は思わずランニング・シューズを買いに行ってしまう、そんなチカラのある作品です。
陸上なんて興味ないもん、などと言わずに読んでみてほしい。
陸上部員はもちろん必読!

オンライン書店ビーケーワン:800

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