2007.03.07

佐藤正午 『Y』

でもそんな人間はどこにもいない。
僕はそのことを身をもって知った。
かけがえのない人間の代わりなどどこにも存在しない。
佐藤正午 『Y』


「かつて僕たちは親友だった」
見知らぬ男から渡されたのは一枚のフロッピーディスク。
納められていたのは過去に戻りたいと強く願った男が語る奇妙な物語。

帯の惹句には「究極の恋愛小説」とあるし、佐藤正午自身「恋愛小説家」として扱われることが多いようですが、どちらもちょっと的はずれ。
もちろん恋愛小説と言って言えないことはないけれど、SFぽくてミステリぽい、青春小説ぽくもあるすばらしい作品。
ぼくが一番好きな小説。
佐藤正午を本棚の特等席に並べるきっかけになった大好きな1冊です。
もともとこの手の話が好きなので、『リプレイ』も北村薫の三部作も面白く読みました。
でも、この『Y』は別格。
同じようなテーマで後発なので一見不利にも思えますが、まったくそんなことはありません。
むしろ『リプレイ』が面白かった人こそツボにはまるはず。
もともと上手さを感じさせる作家ですけれど、魅力的なプロットとあいまって至福の時が味わえます。

アマゾンの書評で「なぜ彼がそこまで思い込むのか理解できない」と書いている人がいました。
でもそこはあれ、女は上書き、男は別名保存。ですから。
ごくごく普通にあることではないかと(笑)

冒頭からぐいぐい引きこまれて、まさに一読巻置くあたわざる傑作です。
未読ならゼヒ!


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2007.01.03

今年のカレンダー

表紙にやられて即決!
使用済頁がポストカードになるのでお得かも。

2007年卓上カレンダー 岩合光昭 むれねこ

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2006.12.24

「本を読まない大人」を見分ける方法

子供の頃、本を読んでいる自分に何と言って声をかけてくるかで大人を判別してました。

「おっ、本読んでるのか、えらいねえ」と言うのが本を読まない大人

「何読んでるの?面白い?」と言うのが本を読む大人

読書の喜びを知らない大人は「本を読むのが楽しい」なんて夢にも思ったことがないので、まったく何のためらいもなくほめます。
子供にしてみれば外で遊んだりテレビゲームをするよりも本を読む方が楽しいから読んでるわけです。
それを突然ほめられても…理解できません。
「ゲームしてる時はほめないのになぜ?」です。

読書の喜びを知る大人は「本を読むのがえらいこと」なんて死んでも考えません。
それどころかその中毒性の恐ろしさを知りつくしてるので「ほどほどにね…」と心の中でつぶやいたり、「活字中毒者倶楽部へようこそ!」とばかりに、にやにやしたりします。

ぼくの場合、国語の先生にほめられる事が多くて居心地の悪い学校生活を送ってました。
もし、当時この本があったら絶対彼らに読ませたかったです。
金原瑞人GJ!

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2006.12.18

梅田望夫/平野啓一郎 『ウェブ人間論』

ようやく手に入れたのでさっそく一気読みしました。
「書店員の話」の書評を読んで気になっていた本の未来についてのやりとりがやはり面白かった。

「著作権を固めれば固めるほど孤立していく」「開いてないとないのと一緒」(梅田望夫)

まったく同感で著作権者は”見せるか見せないか”を論じるのではなく、”どうやって見せるのか”を考えた方が将来につながると思います。守るのではなく、攻めるべき。後ろに川しかないのに守ることなどできません。
ただ、続く議論では日本の出版業界の現状惨状についての認識が今ひとつかみ合わなかったのが残念。紙の本が生き残るのと同時に電子書籍が共存する未来をイメージする平野に対して、紙という材質の優位、利便性を説くのはいいのだけれど、同時にコストが安いことをあげているのがちょっと疑問でした。
日本の地方都市から書店が消え、出版社が青息吐息なのは「本が安すぎるから」だと思うのですが。
参考:ある編集者の気になるノート : 本の値段は、素人が思っているほど高くはない。

ロングテールはいいけれど、検索にヒットするのはしっぽの跡ばかりで肝心の本を手にすることができない未来が来てしまうのでは?というのが正直な気持ち。せめて富裕層は紙の本、そうじゃない人は電子書籍くらいに落ち着いてほしいです。本書を読む限りではまだまだ難しいみたいですけれど。ただ、書き手である平野啓一郎がちゃんと危機感を持ってくれているのは読み手としてうれしかったかな。

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2006.12.12

『yomyom Vol.1』

なかなかでした。
面白かったのはエッセイだと江國香織、角田光代、穂村弘。
小説は川上弘美、大島真寿美、恩田陸がよかった!
一番好きなのは最後に読んだせいもあるけれど、恩田陸「楽園を追われて」かな。
交通事故で死んだ友人が残した原稿を前に、葬儀で久しぶりに顔を合わせた同窓生たちが困惑するお話。
川上弘美はいつも通りな感じ。
大島満寿美はまったくノーマークだったのでうれしい収穫です。

前評判ほど若い人向けな気がしなかったのと、特集と連載がちょっと弱いかなと感じたのが多少心配ではありますが、とりあえずぼくはvol.2も買うことになりそうです。


bk1スタッフレビュー [新潮文庫の新雑誌は読み応え十分『yomyom Vol.1』]

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2006.09.08

関由香『島のねこ』

なんの説明もなく、ただただ南の島に住む猫たちの写真が続きます。
モノクロなのが最初はちょっとだけ残念だったものの(猫の毛色が気になるので(笑))、
最後まで見てみるとやっぱりこれでよかったなあ…という気になります。
所々に登場するおばあちゃん達が好きです。

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2006.08.25

川端裕人『動物園にできること』

動物が好き、生き物が好き、ということは簡単に口に出来ます。
でも、大人になった今、「動物園が好き」と、なんのためらいもなく言うことが出来るでしょうか?

話題になった”新解さん”、『新明解国語辞典 第4版(3刷)』(三省堂)で”動物園”をひくと、

【動物園】
生態を公衆に見せ、かたわら保護を加えるためと称し、捕らえてきた多くの鳥獣・魚虫などに対し、狭い空間での生活を余儀無くし、飼い殺しにする、人間中心の施設。

という説明がされています。
まさにここにある説明こそが、ぼくたちに”複雑な感情”を抱かせるものでしょう。

この『動物園にできること』では、動物園とは何なのか?
動物園の役割、目的、目的達成のためのアプローチにはどんなものがあるのか?という問いを、著者が訪れた動物園先進国アメリカの多様な試みを通じて解き明かそうとしています。
Zoo(動物園)とMenagerie(見せ物小屋)の違いとは?
檻や鉄柵に代わり、主流となったランドスケープ・イマージョンと呼ばれる展示手法、その是非。
動物園が果たすべきは、地域住民への環境教育なのか、それとも絶滅に瀕した種の保存なのか?
取り上げられるテーマはどれも目新しいものばかりで、(少なくともぼくにとっては)
目からウロコが落ちる思い、とはまさにこのことです。

子供の頃は大好きだった場所、でも大人になってからは複雑な感情なしには考えることの出来なくなってしまった動物園を考えるために、動物園が好きだった人、好きな人、すべての人に読んで欲しい1冊。

旭山動物園の成功をきっかけに他の動物園でも色々新しい工夫が始まってるみたいです。
動物園に何を求めるのか、利用者として考えるにはちょうどいい機会かもしれません。

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金井美恵子『タマや』

『小春日和インディアン・サマー』、『文章教室』、『タマや』、『道化師の恋』と続く「目白四部作」の中の一冊。
長らく絶版状態だったのですが、河出文庫から4ヶ月連続で復刊されました。
この四部作のうちでは『タマや』が一番好きだったので、タイトルに持ってきてみました。

金井美恵子、評価はされているのだろうけれど、今この人読んでる人ってどのくらいいるんでしょうか…。
大好きです。
それも尋常じゃなく。
心をわしづかみにされた作家の一人です。

血沸き肉踊る話の好きな人、ハリウッド映画大好き!って人は、たぶん読まない方がいいでしょう。
句読点なしに長々と続く文章、カギ括弧を使わずに描かれる会話、一人称で語っている登場人物がころころ変わる、などなど、文章がやや独特、こういうの嫌いな人多いだろうな、って感じがします。
あと、話のスジがわかりづらい、日本の文壇が誇るオリジナルジャンル(笑)、私小説風にだらだらごちゃごちゃと話が進むようなところがあるので、スジ読みするタイプの人にはちょっと薦めづらい。

日常で起こるありそうでなさそうな、下品と上品の境目のような出来事を書く人なのです。
好き嫌いはもう真っ二つに別れるだろうけれど、好きな人にとっては、宝物のような作家。
読書中は、至福とはこのことだ、という思いが味わえます。

小春日和(インディアン・サマー)文章教室タマや道化師の恋

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2006.07.25

橋本治『宗教なんかこわくない!』

橋本治…。
この人の小説はあまり読まないのですが、(あ、でも『窯変源氏物語』は良かったかも)同時代評論家?というか、評論的なエッセイのようなものはすごく好きで、よく読みます。
で、今回は宗教なんですね。
オウム真理教事件を題材に「宗教とはなんなのか?、一体何?」という問いにいつもながらの橋本治節で明快なんだかよくわからない答えを出しています。
はっきり言って、ぼくの文章力では橋本治の魅力を伝えることは出来ません(って、おいおい)
この人の文章はひどくわかりやすいところとわかりづらいところが混在していて、でも、そのわかんない部分があとになってからじわじわ効いてきて、ある日突然、「そうか!橋本治が言ってたのはこのことだったんだ!」とばかりに天啓(?)が訪れたりします(笑)
で、ぼくにとっては面白そうに見えた各章のタイトルを挙げると、

・オウム真理教事件から”宗教”を排除すると
・しかしオジサン達は”宗教”と”主義”の間に一線を引けない
・私がカナブンになりたい理由

こんな感じなんですけど、どうでしょう?
面白そうに見えます?
とかく日本人は”宗教”というものに対して腰が引けがちで、特に信仰を持つ必要を感じていないぼくとしては、
「なんだかなあ~」と思うことが多かったのです。
で、そこに出てきたのがこの本。
「そうそう、そうなんだよね~。もっと言ってやってよ!」
と快哉を叫んだわけです。

まあ、でも、もし信仰持つならイスラム教かな…。
ムスリムの人たち、幸せそうですもんね。
20世紀に入っても唯一廃れなかった宗教ですし。

とにかく、橋本治の同時代評論もの、未読の方はゼヒ!

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『アトムの時代』

「わたしたちはどこからきたのか。なにものなのか。どこへいくのか」
という扉ではじまるこの本は、原子雲、核爆発の際に生じるキノコ雲の写真集です。

核分裂、ちっぽけな原子から莫大なエネルギーを取り出す。夢のエネルギー、原子力。
昔の子供向けの科学雑誌や読み物に登場する未来予想図には原子力船や原子力飛行機が行き交う姿が描かれていました。
しかし現実には悪夢の大量破壊兵器として登場。以来、世界中で核実験が繰り返されてきました。
日本人として生まれた以上、ほとんどの人は核兵器にたいして何かしらの感情を抱くことと思います。
まず驚いたのは、原子雲が非常に美しい、ということ。
美しいと思うと同時に、なにかとてつもないものを目にしているという畏怖、おそれ、自らが属している人類という種そのものに対する畏敬ともいうべき感情にもおそわれます。
一度開くと簡単には目を離すことができません。

アトムの時代

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