「私は呑んべえだが、アル中とは違う」
「どこが違うの?」
「私はいつでもやめたいときに酒がやめられる」
「だったらどうしてやめないの?」
「どうしてやめなきゃならない?」
ローレンス・ブロック『暗闇にひと突き』
【ネタバレ注意!】
若い女性ばかり8人を狙った“アイスピック連続殺人”
事件から9年が過ぎて、偶然逮捕された犯人は7件の犯行を自供したが、
6人目の犠牲者バーバラ・エッティンガーに関しては頑強に否定し、アリバイも立証された。
スカダーは、バーバラの父親から真犯人を探すよう頼まれるが…。
アル中探偵マット・スカダー、シリーズ第4作。
スカダーのファンであれば、『八百万の死にざま』とともに、シリーズ中最も心に残る1冊。
このシリーズをはじめて読む人は何も言わず2冊セットで!と言っても過言ではありません。
『暗闇にひと突き』は、シリーズの最高傑作にして重大な転換点となった『八百万の死にざま』につながる重要な作品。
『八百万の死にざま』以降、スカダーは酒を飲まなくなりました。
酒との関係が描かれないというのは、スカダー・ファンにとって悲しみ以外の何物でもなく、
依然として出来こそ素晴らしいけれど、そこに”アル中探偵”マット・スカダーはもういないのです。
奇想天外なプロット、あっと驚く真犯人、特異な登場人物を考え出す作家がいます。
一方、とりたてて目新しいことはなにもない、それどころか物語は何も起こらないにもかかわらず、作品を書き上げてしまう作家もいます。
ハナシのある作家がよいのかハナシのない作家がよいのか、読み手側で言えば、すじ読みするタイプなのか、行間を読むタイプなのかということなのですが、初期のマット・スカダー・シリーズの魅力はどちらかといえば行間優先、プロットはあくまでおまけにすぎず、事件に過剰なまでに感情移入し酒に逃避するスカダーの苦悩、ニューヨークの街並やそこに生きる人々に対する陰影豊かな描写にこそあったと思います。
だとするならば、より魅力的なのは『八百万の死にざま』以降か以前かは言わずもがな、と思われてなりません。
不動のオールタイムベスト1、明日死ぬならこの1冊!

